言葉の背後に想像力をめぐらせる
教室に入ると、学生たちが英語で書かれた短編小説を手にグループディスカッションの真っ最中。「言葉の裏にある、主人公の本音を読み取ってみて」。森先生のアドバイスが飛ぶと、学生たちはさらに活気づいた。
「一見優しそうに見える言葉が、相手を傷つけることもあります。登場人物の言葉の背景にどんな感情が隠されているのか、そこに想像力を働かせると作品をよーく理解することができます」
言葉の繊細な使い方にまで気が付くと、また違った解釈ができるってことかな。同じ作品でも、それぞれの読み手が独自の読み方、受け取り方をすればオリジナルの世界観ができあがる。
「文学には『正解』なんてないんです。一人ひとり違っていい。100人居たら100とおりの理解があるはずなんだから」先生はそう言う。
ディスカッションを中心とした森先生の授業は予習が前提。学生たちのテキストも書き込みで一杯だ。
文学研究は壮大なミステリーへの挑戦
森先生も、一つではない答えを20年以上探している。それが、研究対象のトニ・モリスン。黒人女性として初めてノーベル文学賞を受賞し、それまで白人が知らなかった黒人社会を描き続けているアメリカの作家だ。
モリスンの作品にこめられたメッセージや、その背景を語り始めると、森先生の言葉は止まらない!
「モリスンの作品の特徴は、背後に周到な計算がされているところ。つい見逃してしまいそうな場面に、重要な意味が隠されていることがあるんです」
たとえば、さりげなく登場した地名が、実は公民権運動の歴史上、重要な事件があった場所だったり、そこで実際に起こった出来事が、小さなエピソードとして作品に引用されていたり・・・。
「読むたびに発見がある。ホントに油断できないの!」
発見した事実をつなぎ合わせていくと、それまで見えなかった作品世界が見えてくるんだって。まるでミステリーみたい! 私も読みたくなってきた!
先生が初めてモリスンとコンタクトを取ったのは、手紙を通しての書簡インタビュー。その内容は「トニ・モリスン」(共著)に収録されている。「その時は、対面は叶わなかったけど、私にとってはまさに『Dreams come true!』」だったそう。
文学を通して「自分」に出会う
インタビュー中、先生が気になることを言った。
「文学は歴史に埋もれた無名の人たちの声を聞く手段」・・・・どういう意味なんだろう。
「歴史は常に勝者の視点で描かれています。敗者には、発言の機会は与えられないんです」
確かに、歴史の教科書に登場するのは、何らかの功績を残した英雄ばかり。でも、そんな英雄の陰には数え切れないほどの名もない人々が存在する。彼らが何を思い、なぜ名を残さなかったのか、教科書は教えてくれない。
「きっと、素晴らしい人もたくさん居たはず。歴史に埋もれてしまったそうした事実も、文学を通してなら表現することができます」
なるほど。森先生は、そうやって文学を通じて、さまざまな生き方があるって教えてくれるんだ。多様な生き方を知ることで、それに対して「共感できる自分」、あるいは「共感できない自分」を発見することもできる。「文学は自分探し」という先生の言葉に心から納得した。